先に読むと理解が早い
FIG.01 — 投稿の論点ごとに、見る法律が変わる
SNS投稿が「広告」として扱われる境界
医療法は平成30年(2018年)6月の改正で、規制の対象を「広告」という決まった形式だけでなく、患者を医療機関へ誘う手段としての表示全般に広げました。この考え方は、ウェブサイトに限らずSNSにもそのまま当てはまります。厚生労働省が公開している医療広告規制の事例解説書は、令和6年3月の改訂(第4版)でSNS・動画に絞った章が新設され、令和7年3月の改訂(第5版)でその内容がさらに拡充されました。この章では、SNS投稿は①プロフィール、②投稿(テキスト・画像・動画。一定期間で限定公開されるものを含む)、③返信の組み合わせで医療広告が成立している実態がある、と説明されています。字数の少ない投稿でも、返信欄で治療内容や費用を書き足せば「一連の情報提供」とみなされ、投稿と返信をセットで見られます。
この解説書がとくに強調しているのは、公式アカウントでなくても対象になりうるという点です。個人アカウントによる投稿であっても、どの医療機関・医師のことか分かる「特定性」と、来院や施術を促す「誘引性」の両方がそろえば、医療広告として扱われます。スタッフが私物のアカウントで「うちの院すごい」と発信する行為は、公式広報ではないという理由だけでは守られません。ハッシュタグについても同じで、投稿内容と関係のないタグを使って表示回数を稼ぐような使い方は、それ自体が誘引の手段として問題になります。院の公式アカウントだけをチェックしていても、個人アカウント経由の発信がすり抜けてしまうのは、この2つの要件が揃うかどうかで判断されるためです。
体験談は一律禁止、ビフォーアフター写真は条件付き
同じ「患者の声を見せる」表現でも、体験談とビフォーアフター写真では扱いが違います。治療内容や効果に関する体験談は、医療広告ガイドラインで一律に禁止されています。理由は、同じ施術を受けても患者ごとに感じ方や結果は異なるのに、特定の感想だけを取り上げて紹介すると、読み手に「自分も同じ結果になる」という誤った期待を持たせてしまうためです。自院が発信した投稿だけでなく、フォロワーがタグ付けで投稿してくれた好意的な感想を公式アカウントが引用・紹介する行為も、体験談の禁止に触れると事例解説書に明記されています。善意のリポストのつもりでも、扱いは変わりません。
一方でビフォーアフター写真は、一律禁止ではなく条件付きで掲載できます。写真だけを載せて「効果には個人差があります」で済ませるのではなく、施術内容・治療期間や回数・費用の目安・主なリスクや副作用を、写真のすぐ近くにひとまとまりで書く必要があります。ここでのポイントは、「別リンク先に詳しい説明がある」だけでは足りないという点です。事例解説書は、投稿本文やプロフィール・返信を組み合わせた一連の情報提供のなかで、この一体性が保たれているかを見ています。SNSは文字数や画面の制約でリンク送りにしたくなりますが、その分割そのものが違反の理由になりえます。
院内の承認フローが担当者を守る
SNS運用は、反応(いいね・保存・フォロー増加)で成果が測られやすい仕事です。この評価軸のもとでは、体験談的な言い回しや、ビフォーアフター写真を単体で見せる投稿のほうが伸びやすい傾向があります。担当者が一人で投稿の可否を判断していると、伸びを優先した表現に寄っていきやすく、本人に指導が入る意図がなくても、結果として医療広告ガイドラインに触れる投稿が出てしまうことがあります。フォロワー数や保存数を評価指標に置く院ほど、この綱引きが日常的に起き、担当者ひとりの裁量に委ねられがちになります。
ここで大事なのは、行政指導や是正の対象になるのは最終的に医療機関であって、担当者個人の落ち度として処理される話ではないという点です。だからこそ、投稿前に院長や広報責任者などが内容を確認する承認フローを、体験談・ビフォーアフター写真・費用表現・未承認品の名称や効能効果に関する広告表現の4点に絞ってでも用意しておくと、担当者は「自分の判断だけで公開しない」という立場に立てます。判断に迷う投稿を一人で抱えないことが、担当者自身を守ることにもつながります。承認フローが紙の上だけの決まりごとで終わっている院では、結局のところ担当者の勘に頼った運用に戻ってしまいます。
伸ばす前に、守る線を決める
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① どの規制の対象かを先に見る
体験談・症例写真・価格・未承認品・比較表現は、医療広告ガイドライン(2018年6月施行)・景表法・薬機法のどれに触れるかが違う。同じ投稿でも、論点ごとに見る法律が変わる。
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② 体験談は行政指導の対象
患者の体験談を載せると医療広告GLの指導対象になりうる。「個人の感想です」と添えても、広告として出すなら扱いは同じ。
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③ PR・案件は関係性を開示する
提供や報酬を受けた投稿でも、ステマ規制は原則として広告主・事業者側の表示が対象。広告主が表示内容に関与し、事業者の表示に当たるなら、2023年10月施行のステマ規制(景表法)の論点になる。開示の具体は関係性開示の項で扱う。
→ PR・アフィリ・紹介の関係性開示 -
④ 未承認品の広告は薬機法
国内未承認の医薬品・医療機器は、効能断定だけでなく、名称・製造方法・効能効果・性能などに関する広告全体が薬機法の論点になる。価格や効果を語る前に、承認状況を確認する。
→ 承認・未承認の見分け方
現場で、この読み筋を当てる
投稿本文を短くまとめ、費用やリスクは返信欄に分けて書いていた
求人票 公式Instagramの投稿本文は読みやすさを優先して短くまとめており、費用やリスク・副作用の説明は自院アカウントからの返信コメントに分けて書いていた。
読み筋 返信を使った説明の分割自体が禁止されているわけではありません。ただし、投稿と返信をあわせて見たときに、治療内容・費用・主なリスクや副作用が一体的かつ一覧性をもって伝わっているかが問われます。返信に書けば投稿本文は自由、という考え方は成り立ちません。
フォロワーの好意的な投稿を公式ストーリーズで紹介した
求人票 施術を受けた利用客が「効果がすごかった」とタグ付けして投稿してくれたので、公式アカウントのストーリーズでそのままシェアした。好意的な内容だったので問題ないと考えていた。
読み筋 他者の投稿であっても、自院のサービスの体験談として紹介すれば体験談の禁止に触れうる、と事例解説書に明記されています。感謝の気持ちからのシェアでも、扱いを変えてくれる理由にはなりません。
スタッフの個人アカウントでビフォーアフターを載せていた
求人票 施術担当のスタッフが、自分の私物アカウントで自院の症例のビフォーアフター写真を「担当した症例です」と紹介していた。公式発信ではないので大丈夫だと思っていた。
読み筋 個人アカウントでも、院や医師が特定でき、来院を促す内容であれば医療広告の対象になりえます。「公式ではないから」は、対象から外れる理由にはなりません。
やりがちな誤読
NG 投稿本文は「あの人気施術、今なら1回1万円〜」だけにして、費用の詳細やリスク・副作用は「詳しくはHPで」と別リンクに任せる。
読み直す 投稿本文か、それに続く一連の返信のなかで、標準的な治療期間・回数、費用の目安(最低額〜最高額)、主なリスクや副作用まで書く。
別リンク先の情報だけでは「一体的かつ一覧性をもった情報提供」にならず、限定解除(費用や治療期間、リスク・副作用などの必要事項をひとまとまりで示すことで、通常は広告できない内容も掲載できるようになる医療広告ガイドライン上の仕組み)の条件を満たしません。
NG ビフォーアフター写真だけを投稿し、コメント欄に「劇的に変わりました」と感想を添える。
読み直す ビフォーアフター写真を使う場合は、施術内容・回数・費用・主なリスクや副作用を写真の近くに明記し、感想や体験談にあたる表現は避ける。
写真単体に誇張したコメントを添える形は、治療結果に個人差があるにもかかわらず誤認を与える表現として事例解説書に挙げられています。
NG フォロワーがタグ付けして投稿してくれた好意的な感想を、そのまま公式ストーリーズでリポストする。
読み直す リポストする前に体験談・感想にあたる表現が含まれていないか確認し、含まれる場合は掲載を見送るか、感想部分を外して院の情報提供だけに絞る。
他者の投稿の引用でも、自院のサービスの体験談紹介にあたれば違反になります。
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あなたの立場で読む
SNS担当志望なら、投稿作成が単なる広報ではなく法務チェック込みの仕事だと分かる。
院内では、投稿前チェックリスト、承認フロー、価格・症例写真の出し方を標準化する材料になる。
反応が取れそうな投稿案を1つ選び、効果断定・未承認品の名称/効能効果/性能/価格誘導・ビフォーアフター条件・PR開示の4点で医療広告GL/景表法/薬機法に触れる箇所を洗い、言い換える。